第二次世界大戦を映画で
- 2010/09/13
- 18:04
もう9月になってしまいました。1年早いものです。こうして、カレーを山盛り食って、ガリガリ君をむさぼり食い、腹を壊しているうちに1年過ぎていくんでしょうね。
早いといえば、今年で終戦から65年です。戦争を知らない子供たちはもう65歳になりました。資料やら映像やらは散々残されているので、僕などは第二次世界大戦が自分の生まれるはるか前のことだというのがちょっと不思議なのですが、でも事実昔のことです。
今回は、第二次世界大戦関連の傑作映画を歴史のお勉強もかねて独断と偏見で選んでみました。
戦史
よく混同されているようですが、第二次世界大戦と太平洋戦争は同一ではありません。1939年9月のドイツのポーランドへの侵攻で始まり、それがヨーロッパ全土に飛び火したものが第二次世界大戦、1941年12月の日本軍の真珠湾攻撃に始まり、それがアジア全土に飛び火したのが太平洋戦争です。
まず、今回は第二次世界大戦編。なお、あまり知られていないことですがスペインとアイルランドは参戦していません。
『史上最大の作戦』(米)(ノルマンディー上陸作戦)
『プライベートライアン』(米)監督スティーヴン・スピルバーグ(ノルマンディー上陸作戦)
『遠すぎた橋』監督リチャード・アッテンボロー (マーケットガーデン作戦)
『バンド・オブ・ブラザーズ』(米)製作総指揮スティーヴン・スピルバーグ+トム・ハンクス (ヨーロッパ戦線 Dデイからドイツ降伏まで)
『女王陛下の戦士』(蘭)監督ポール・バーホーヴェン (オランダ レジスタンス活動)
『Uボート』(独・米)監督ヴォルフガング・ペーターセン (大西洋戦線)
『ヒトラー 最後の12日間』(独)監督オリヴァー・ヒルシュピーゲル(戦火のベルリン)
ヨーロッパ戦線での最大の作戦といえば、なんといっても「史上最大の作戦」と言われたノルマンディー上陸作戦。1944年6月6日、西ヨーロッパ侵攻のため、300万人近い連合国軍兵士がフランスのノルマンディーに上陸しました。これ以前もこれ以後も、ノルマンディー上陸作戦ほどの大規模な上陸作戦は決行されていません。そのため、ノルマンディー関連の映画はさんざん制作されています。
その中でも、独仏米の3か国の動向を、ジョン・ウェイン、ヘンリー・フォンダ、リチャード・バートンなどオールスターキャストでダイナミックかつ詳細にわたって描いた『史上最大の作戦』はドイツ軍、フランスのレジスタンス、米軍、英軍の動向が長尺にわたって描かれており、この手のマニアにはたまらない映画になっています。リアル全盛の現代にあって血が出ない戦闘シーンは少々物足りなさがあるかもしれませんが、それでもこれはなお素晴らしい映画です。
『プライベート・ライアン』は兄弟全員を戦場でなくした2等兵を救出する作戦という物語仕立てですが、なんといってもすごいのは戦闘シーン。手足が吹っ飛び、内臓が飛び出し、血がブーブー出ます。しかも、ただ残虐なだけでなく、この映画の戦闘シーンが素晴らしいのは戦闘にストーリー性があるということです。冒頭の上陸作戦では、最初ドイツ軍のMG機関銃の恰好の標的になってしまった米兵たちが混乱していますが、徐々に指揮官の元、体制を立て直し、少しずつ相手陣地の中枢に踏み込んでいく過程が描かれています。
また、マニアの間で話題になった兵器描写のディティールも見事なもので、おそらく、M-1ガーランドライフルの銃弾のクリップが跳ね上がるところをちゃんと描いた映画はこれが初めてなのではないでしょうか。MG機関銃の銃身を交換する*タイミングを狙って突撃するという作戦を立てるのもミリオタたちの間で評価が高いようです。ちなみにこの映画、あまりの生々しさに、現役の兵士たちが吐いたというエピソードまであります。
(*MG機関銃は毎分数千発というすさまじい速度で弾丸を吐き出します。なので、撃ち続けていると、熱で銃身が曲がってしまい照準がずれてしまいます。そのため、ときおり銃身を交換してやらないと使い物にならなくなります。)
なお、この作戦以降ヨーロッパ戦線での情勢は劇的に変化していきますが、その後のドイツ軍降伏までを全10話のミニシリーズとして描いたのが、HBOのテレビシリーズ『バンド・オブ・ブラザーズ』です
ノルマンディー上陸作戦からはじまり、マーケットガーデン作戦、バルジの戦い、バストーニュの戦いなど、ヨーロッパにおける主要な戦闘が描かれています。
登場人物たちが所属しているのは、米国陸軍第101空挺師団第506パラシュート歩兵連隊第2大隊E中隊で、部隊の主要なメンバーが毎回代わる代わる語り役を務めます。ちなみに彼らは全員実在の人物。各エピソード冒頭のインタビューに登場するのはその後のご本人たちです。シリーズの製作総指揮は『プライベート・ライアン』を手掛けたスピルバーグ。テレビとはとても思えないスケール感といい、リアリティーといい、素晴らしいシリーズです。
なお、『プライベート・ライアン』以降、戦争映画は確実にリアル志向に向かっており、ほとんどどの映画でもM-1ガーランドは8発撃つと、クリップが跳ね上がるようになりました。もちろん、『バンド・オブ・ブラザーズ』でもクリップは跳ね上がってます。パラシュート降下中に装備が吹っ飛んでしまうなんていうのもリアルですね。
このシリーズ、戦闘シーンだけでなくドラマとしても素晴らしくアメリカ生まれのドイツ兵のエピソードや、ウィンターズ少佐(ダミアン・ルイス)が「護身用にお持ちください」とドイツ人将校にルガーを渡す場面などは強く印象に残りました。タイトルは「兄弟の絆」という意味で、シェイクスピアの名作『ヘンリー五世』のアジンコートの戦いの場面でのセリフからとっています。戦争は悲惨な一方で、仲間同士の強いきずなを生んだということですかね。
なお、原作は歴史家スティーブン・アンブローズのノンフィクションです。
また、ヨーロッパ戦線においては、ポール・バーホーヴェン監督のオランダ時代の傑作『女王陛下の戦士』があります。これは、ヨーロッパの小国であるオランダからみた戦史で、ルトガー・ハウアー演じる主人公が、ナチ占領下のオランダから、運命に導かれるようにしてイギリスにわたり、戦時下の母国に戻って諜報活動を行うところまでが描かれています。彼の視点を通し、戦前、戦中、戦後のオランダの姿を見ることができます。
同監督の『ブラックブック』も傑作です。
ノルマンディー上陸作戦はその後の情勢を変えてしまうまさに「史上最大の作戦」でしたが、逆に大失敗におわった作戦といえばマーケットガーデン作戦。この作戦は、まずオランダ、アルンヘムの5つの橋に向けて落下傘部隊が降下(マーケット作戦)し、そのあと地上の戦車部隊と合流して制圧(ガーデン作戦)するというもので、「もし両者が合流できなかったらどうするの?」というギリギリの薄氷を踏むような作戦でした。このような作戦が取られたのは膠着した戦況をクリスマスまでに解決しようと上層部が焦ったのが原因で、結局失敗に終わってしまいました。『遠すぎた橋』は、英米独の軍隊、戦場となったオランダはアルンヘムの地元民たちの3つ視点からマーケットガーデン作戦を描いています。
この映画の見ものは巨費をとうじた戦闘シーンにもありますが、なんといっても制作費のほとんどが費やされたというオールスターキャスト。ロバート・レッドフォード、ジーン・ハックマン、ショーン・コネリー、マイケル・ケイン、アンソニー・ホプキンズ、ローレンス・オリヴィエ、ダーク・ボガード、ジェームズ・カーン、エリオット・グールド、マクシミリアン・シェルといったキラ星のごとく輝くスターたちが次々と出てきて画面をにぎわせてくれます。作戦が失敗し、下士官に詰め寄られた司令官のブラウニング中将がこういいます
「あの橋はすこし遠すぎたな」
無能な司令官は敵より恐ろしいです。
敗戦国から
アメリカで散々製作された戦争映画ですが、あまり多くないのがドイツ。ホロコーストという汚点を残してしまい、ドイツ側に罪の意識があるのでしょうか。
でも、フリッツ・ラング初めてする多くの名将を生み出してきたドイツ。映画界の底力は相当なものです。
『Uボート』は古今東西の潜水艦映画の傑作。Uボートはエニグマ*と並び、もっとも恐れられた発明品でした。『Uボート』は見事な撮影技術と音響効果で、見るものに潜水艦内にいるような錯覚すら起こさせるすごい映画です。潜水艦は敵から見えないように行動するのが基本。そのため、ほとんど海上に出ずに、ソナー(音波をぶつけて敵の位置を推測するシステム)で敵との駆け引きを行うところ、すごくリアルです。あまりにも残酷なラストシーンは議論を呼びましたが、これがドイツの第二次世界大戦に対する意識の表れなのでしょうか。
(*ドイツの発明家アーサー・シェルビウスが開発したローター型暗号器。その威力はすさまじく、その解読のため英米の言語学者や数学者を集めたステーションXという解読チームが結成されました。その中で中核を担ったのがイギリスの数学者アラン・チューリングで、エニグマ解読のためにチューリングが発明した「ボム」という計算機は現在のコンピューターの基礎になっています。参考・サイモン・シン著『暗号解読』)
『ヒットラー 最後の12日間』は、20世紀史上のタブーに挑んだ問題作。ヒットラーの姿を人間臭描く一方で、戦火のベルリンにおける敗戦国の惨状をえがいており、ドイツが敗戦国だったという当たり前の事実を再確認できます。ヒットラーを演じたスイスの名優、ブルーノ・ガンツの何かが乗り移ったような演技も見事でした。
ホロコースト
『シンドラーのリスト』(米)監督スティーブン・スピルバーグ
『ショア』(仏)監督クロード・ランズマン
『ブラックブック』(蘭)監督ポール・バーホーヴェン
『ヒトラーの贋札』(墺)監督シュテファン・ルツォヴィツキー
ちょっと番外編。ホロコーストは20世紀における人類最大の負の遺産の一つです。ワルシャワのアウシュビッツと広島の原爆ドームが人類の負の遺産として世界遺産に登録されているのはどなたもよくご存じのことでしょう。
『シンドラーのリスト』は、スピルバーグのメロドラマな要素も出てしまってはいるし、なぜか全員英語を話しているのはマイナスですが、やはりすごい映画です。モノクロの迫力満点の映像といい、記録映画を見ているようなリアリズムといい、この映画が半端じゃない領域にたどり着いていることがわかります。中盤のゲットーの解体のシークエンスは何度見ても唖然としてしまう迫力です。
ところで、たまに、何かに影響されたのか「ホロコーストなんてなかった」という発言をするインテリもどきがいます。
確かに、ホロコーストに関する公式な書類は残っていません。しかし、これだけ多くの証言があるということは何事かがあったのは間違いのないことであり、自分の考えを補強してくれる情報だけを選んでしまうのは危険な行為です。もし、そういうひとがいたら『ショア』というホロコースト生存者にひたすらインタビューし続けるという鬱一直線のすさまじい映画があるので、ぜひそれを見せてください。ちなみに、僕はあまりのヘビーさに30分で降参しました。
『シンドラーのリスト』は素晴らしい映画です。でも、ホロコースト関連で僕が1番好きなのは、変態監督バーホーヴェンの『ブラックブック』です。
これは家族をナチに惨殺されたヒロインが、レジスタンス活動に身を投じ、色仕掛けを使ってナチに潜入するというとんでもない内容の映画です。
この映画、何がすごいって善人が一人も出てこないところがすごいです。『シンドラーのリスト』には、「シンドラーがユダヤ人たちを助ける理由がわからない」という批判が寄せられることがありますが、『ブラックブック』の登場人物を動かしているのは、復讐とか欲望といったわかりやすい目的意識です。オッパイもチンコもヘアもはっきり出てくるし、最後の方ではヒロインがウンコまみれになるというとんでもない場面があります。
さらに、エンディングはとてつもなく皮肉です。
『シンドラーのリスト』では、まるでイスラエルがユダヤ人の安住の地であるかのごとく描かれていましたが、バーホーヴェンは最後まで容赦しません。
エンディングでヒロインは激動の時代を生き抜き、イスラエルで結婚していたことが明かされますが、最後の場面はヒロインが家族とともに歩いてゆくカットからクレーンでのロングショットに切り替わり、イスラエルとパレスチナのドンパチの場面で終わります。 *
(*すいません。どうやらこの場面スエズ動乱の場面みたいです。ということはドンパチやってる相手はエジプト軍?すいません、この辺はっきりわからないです。でも、ユダヤの国とイスラムの国がドンパチやってることに変わりはないですね。)
第二次大戦後、ユダヤ人は安住の地を求め、現在のイスラエルと呼ばれる地にたどり着きました。今では信じられないことですが当初、イスラム教徒たちは彼らを快く迎え入れ、ユダヤとイスラムの信者たちは仲良く共存していました。しかし、シオニスト*たちの運動でその平和なバランスは粉々に破壊されました。当時を知るイスラエル人には、そのころを懐かしむ人も少なくないといいます。
以降、両国間では果てることないドンパチが続いています。
そこまで描き切ったバーホーヴェンはやはりすごいです。そして、この映画をみると「戦争はなくならない」という殺伐とした気分になります。
なお、現代イスラエルに関しては『戦場でワルツを』という素晴らしい映画があるのですが、第二次世界大戦とは関係ないので詳細は端折ります。
(*イスラエルの地に故郷を再建しよう、あるいはユダヤ教、ユダヤ・イディッシュ・イスラエル文化の復興運動を興そうとするユダヤ人の近代的運動家のことです。)
『ヒトラーの贋札』
こちらはオーストリア産のホロコースト関連映画。贋札づくりのために生かされたユダヤ人たちが生きるために必死で贋札を作るという映画です。生きるためとはいえ、進んで罪を犯したユダヤ人たちの血を吐くようなつらい心情が描かれています。これ、原作はノンフィクション。タイトルは一緒です。
東部戦線など、一切触れることができなかった項目があります。知識不足です。東部戦線に関しては、サム・ペキンパー監督の『戦争のはらわた』という傑作がありますがすいません未見です。
お付き合いいただきありがとうございました。次回は太平洋戦争編です
早いといえば、今年で終戦から65年です。戦争を知らない子供たちはもう65歳になりました。資料やら映像やらは散々残されているので、僕などは第二次世界大戦が自分の生まれるはるか前のことだというのがちょっと不思議なのですが、でも事実昔のことです。
今回は、第二次世界大戦関連の傑作映画を歴史のお勉強もかねて独断と偏見で選んでみました。
戦史
よく混同されているようですが、第二次世界大戦と太平洋戦争は同一ではありません。1939年9月のドイツのポーランドへの侵攻で始まり、それがヨーロッパ全土に飛び火したものが第二次世界大戦、1941年12月の日本軍の真珠湾攻撃に始まり、それがアジア全土に飛び火したのが太平洋戦争です。
まず、今回は第二次世界大戦編。なお、あまり知られていないことですがスペインとアイルランドは参戦していません。
『史上最大の作戦』(米)(ノルマンディー上陸作戦)
『プライベートライアン』(米)監督スティーヴン・スピルバーグ(ノルマンディー上陸作戦)
『遠すぎた橋』監督リチャード・アッテンボロー (マーケットガーデン作戦)
『バンド・オブ・ブラザーズ』(米)製作総指揮スティーヴン・スピルバーグ+トム・ハンクス (ヨーロッパ戦線 Dデイからドイツ降伏まで)
『女王陛下の戦士』(蘭)監督ポール・バーホーヴェン (オランダ レジスタンス活動)
『Uボート』(独・米)監督ヴォルフガング・ペーターセン (大西洋戦線)
『ヒトラー 最後の12日間』(独)監督オリヴァー・ヒルシュピーゲル(戦火のベルリン)
ヨーロッパ戦線での最大の作戦といえば、なんといっても「史上最大の作戦」と言われたノルマンディー上陸作戦。1944年6月6日、西ヨーロッパ侵攻のため、300万人近い連合国軍兵士がフランスのノルマンディーに上陸しました。これ以前もこれ以後も、ノルマンディー上陸作戦ほどの大規模な上陸作戦は決行されていません。そのため、ノルマンディー関連の映画はさんざん制作されています。
その中でも、独仏米の3か国の動向を、ジョン・ウェイン、ヘンリー・フォンダ、リチャード・バートンなどオールスターキャストでダイナミックかつ詳細にわたって描いた『史上最大の作戦』はドイツ軍、フランスのレジスタンス、米軍、英軍の動向が長尺にわたって描かれており、この手のマニアにはたまらない映画になっています。リアル全盛の現代にあって血が出ない戦闘シーンは少々物足りなさがあるかもしれませんが、それでもこれはなお素晴らしい映画です。
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『プライベート・ライアン』は兄弟全員を戦場でなくした2等兵を救出する作戦という物語仕立てですが、なんといってもすごいのは戦闘シーン。手足が吹っ飛び、内臓が飛び出し、血がブーブー出ます。しかも、ただ残虐なだけでなく、この映画の戦闘シーンが素晴らしいのは戦闘にストーリー性があるということです。冒頭の上陸作戦では、最初ドイツ軍のMG機関銃の恰好の標的になってしまった米兵たちが混乱していますが、徐々に指揮官の元、体制を立て直し、少しずつ相手陣地の中枢に踏み込んでいく過程が描かれています。
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また、マニアの間で話題になった兵器描写のディティールも見事なもので、おそらく、M-1ガーランドライフルの銃弾のクリップが跳ね上がるところをちゃんと描いた映画はこれが初めてなのではないでしょうか。MG機関銃の銃身を交換する*タイミングを狙って突撃するという作戦を立てるのもミリオタたちの間で評価が高いようです。ちなみにこの映画、あまりの生々しさに、現役の兵士たちが吐いたというエピソードまであります。
(*MG機関銃は毎分数千発というすさまじい速度で弾丸を吐き出します。なので、撃ち続けていると、熱で銃身が曲がってしまい照準がずれてしまいます。そのため、ときおり銃身を交換してやらないと使い物にならなくなります。)
なお、この作戦以降ヨーロッパ戦線での情勢は劇的に変化していきますが、その後のドイツ軍降伏までを全10話のミニシリーズとして描いたのが、HBOのテレビシリーズ『バンド・オブ・ブラザーズ』です
ノルマンディー上陸作戦からはじまり、マーケットガーデン作戦、バルジの戦い、バストーニュの戦いなど、ヨーロッパにおける主要な戦闘が描かれています。
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登場人物たちが所属しているのは、米国陸軍第101空挺師団第506パラシュート歩兵連隊第2大隊E中隊で、部隊の主要なメンバーが毎回代わる代わる語り役を務めます。ちなみに彼らは全員実在の人物。各エピソード冒頭のインタビューに登場するのはその後のご本人たちです。シリーズの製作総指揮は『プライベート・ライアン』を手掛けたスピルバーグ。テレビとはとても思えないスケール感といい、リアリティーといい、素晴らしいシリーズです。
なお、『プライベート・ライアン』以降、戦争映画は確実にリアル志向に向かっており、ほとんどどの映画でもM-1ガーランドは8発撃つと、クリップが跳ね上がるようになりました。もちろん、『バンド・オブ・ブラザーズ』でもクリップは跳ね上がってます。パラシュート降下中に装備が吹っ飛んでしまうなんていうのもリアルですね。
このシリーズ、戦闘シーンだけでなくドラマとしても素晴らしくアメリカ生まれのドイツ兵のエピソードや、ウィンターズ少佐(ダミアン・ルイス)が「護身用にお持ちください」とドイツ人将校にルガーを渡す場面などは強く印象に残りました。タイトルは「兄弟の絆」という意味で、シェイクスピアの名作『ヘンリー五世』のアジンコートの戦いの場面でのセリフからとっています。戦争は悲惨な一方で、仲間同士の強いきずなを生んだということですかね。
なお、原作は歴史家スティーブン・アンブローズのノンフィクションです。
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また、ヨーロッパ戦線においては、ポール・バーホーヴェン監督のオランダ時代の傑作『女王陛下の戦士』があります。これは、ヨーロッパの小国であるオランダからみた戦史で、ルトガー・ハウアー演じる主人公が、ナチ占領下のオランダから、運命に導かれるようにしてイギリスにわたり、戦時下の母国に戻って諜報活動を行うところまでが描かれています。彼の視点を通し、戦前、戦中、戦後のオランダの姿を見ることができます。
同監督の『ブラックブック』も傑作です。
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ノルマンディー上陸作戦はその後の情勢を変えてしまうまさに「史上最大の作戦」でしたが、逆に大失敗におわった作戦といえばマーケットガーデン作戦。この作戦は、まずオランダ、アルンヘムの5つの橋に向けて落下傘部隊が降下(マーケット作戦)し、そのあと地上の戦車部隊と合流して制圧(ガーデン作戦)するというもので、「もし両者が合流できなかったらどうするの?」というギリギリの薄氷を踏むような作戦でした。このような作戦が取られたのは膠着した戦況をクリスマスまでに解決しようと上層部が焦ったのが原因で、結局失敗に終わってしまいました。『遠すぎた橋』は、英米独の軍隊、戦場となったオランダはアルンヘムの地元民たちの3つ視点からマーケットガーデン作戦を描いています。
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この映画の見ものは巨費をとうじた戦闘シーンにもありますが、なんといっても制作費のほとんどが費やされたというオールスターキャスト。ロバート・レッドフォード、ジーン・ハックマン、ショーン・コネリー、マイケル・ケイン、アンソニー・ホプキンズ、ローレンス・オリヴィエ、ダーク・ボガード、ジェームズ・カーン、エリオット・グールド、マクシミリアン・シェルといったキラ星のごとく輝くスターたちが次々と出てきて画面をにぎわせてくれます。作戦が失敗し、下士官に詰め寄られた司令官のブラウニング中将がこういいます
「あの橋はすこし遠すぎたな」
無能な司令官は敵より恐ろしいです。
敗戦国から
アメリカで散々製作された戦争映画ですが、あまり多くないのがドイツ。ホロコーストという汚点を残してしまい、ドイツ側に罪の意識があるのでしょうか。
でも、フリッツ・ラング初めてする多くの名将を生み出してきたドイツ。映画界の底力は相当なものです。
『Uボート』は古今東西の潜水艦映画の傑作。Uボートはエニグマ*と並び、もっとも恐れられた発明品でした。『Uボート』は見事な撮影技術と音響効果で、見るものに潜水艦内にいるような錯覚すら起こさせるすごい映画です。潜水艦は敵から見えないように行動するのが基本。そのため、ほとんど海上に出ずに、ソナー(音波をぶつけて敵の位置を推測するシステム)で敵との駆け引きを行うところ、すごくリアルです。あまりにも残酷なラストシーンは議論を呼びましたが、これがドイツの第二次世界大戦に対する意識の表れなのでしょうか。
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(*ドイツの発明家アーサー・シェルビウスが開発したローター型暗号器。その威力はすさまじく、その解読のため英米の言語学者や数学者を集めたステーションXという解読チームが結成されました。その中で中核を担ったのがイギリスの数学者アラン・チューリングで、エニグマ解読のためにチューリングが発明した「ボム」という計算機は現在のコンピューターの基礎になっています。参考・サイモン・シン著『暗号解読』)
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『ヒットラー 最後の12日間』は、20世紀史上のタブーに挑んだ問題作。ヒットラーの姿を人間臭描く一方で、戦火のベルリンにおける敗戦国の惨状をえがいており、ドイツが敗戦国だったという当たり前の事実を再確認できます。ヒットラーを演じたスイスの名優、ブルーノ・ガンツの何かが乗り移ったような演技も見事でした。
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ホロコースト
『シンドラーのリスト』(米)監督スティーブン・スピルバーグ
『ショア』(仏)監督クロード・ランズマン
『ブラックブック』(蘭)監督ポール・バーホーヴェン
『ヒトラーの贋札』(墺)監督シュテファン・ルツォヴィツキー
ちょっと番外編。ホロコーストは20世紀における人類最大の負の遺産の一つです。ワルシャワのアウシュビッツと広島の原爆ドームが人類の負の遺産として世界遺産に登録されているのはどなたもよくご存じのことでしょう。
『シンドラーのリスト』は、スピルバーグのメロドラマな要素も出てしまってはいるし、なぜか全員英語を話しているのはマイナスですが、やはりすごい映画です。モノクロの迫力満点の映像といい、記録映画を見ているようなリアリズムといい、この映画が半端じゃない領域にたどり着いていることがわかります。中盤のゲットーの解体のシークエンスは何度見ても唖然としてしまう迫力です。
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ところで、たまに、何かに影響されたのか「ホロコーストなんてなかった」という発言をするインテリもどきがいます。
確かに、ホロコーストに関する公式な書類は残っていません。しかし、これだけ多くの証言があるということは何事かがあったのは間違いのないことであり、自分の考えを補強してくれる情報だけを選んでしまうのは危険な行為です。もし、そういうひとがいたら『ショア』というホロコースト生存者にひたすらインタビューし続けるという鬱一直線のすさまじい映画があるので、ぜひそれを見せてください。ちなみに、僕はあまりのヘビーさに30分で降参しました。
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『シンドラーのリスト』は素晴らしい映画です。でも、ホロコースト関連で僕が1番好きなのは、変態監督バーホーヴェンの『ブラックブック』です。
これは家族をナチに惨殺されたヒロインが、レジスタンス活動に身を投じ、色仕掛けを使ってナチに潜入するというとんでもない内容の映画です。
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この映画、何がすごいって善人が一人も出てこないところがすごいです。『シンドラーのリスト』には、「シンドラーがユダヤ人たちを助ける理由がわからない」という批判が寄せられることがありますが、『ブラックブック』の登場人物を動かしているのは、復讐とか欲望といったわかりやすい目的意識です。オッパイもチンコもヘアもはっきり出てくるし、最後の方ではヒロインがウンコまみれになるというとんでもない場面があります。
さらに、エンディングはとてつもなく皮肉です。
『シンドラーのリスト』では、まるでイスラエルがユダヤ人の安住の地であるかのごとく描かれていましたが、バーホーヴェンは最後まで容赦しません。
エンディングでヒロインは激動の時代を生き抜き、イスラエルで結婚していたことが明かされますが、最後の場面はヒロインが家族とともに歩いてゆくカットからクレーンでのロングショットに切り替わり、イスラエルとパレスチナのドンパチの場面で終わります。 *
(*すいません。どうやらこの場面スエズ動乱の場面みたいです。ということはドンパチやってる相手はエジプト軍?すいません、この辺はっきりわからないです。でも、ユダヤの国とイスラムの国がドンパチやってることに変わりはないですね。)
第二次大戦後、ユダヤ人は安住の地を求め、現在のイスラエルと呼ばれる地にたどり着きました。今では信じられないことですが当初、イスラム教徒たちは彼らを快く迎え入れ、ユダヤとイスラムの信者たちは仲良く共存していました。しかし、シオニスト*たちの運動でその平和なバランスは粉々に破壊されました。当時を知るイスラエル人には、そのころを懐かしむ人も少なくないといいます。
以降、両国間では果てることないドンパチが続いています。
そこまで描き切ったバーホーヴェンはやはりすごいです。そして、この映画をみると「戦争はなくならない」という殺伐とした気分になります。
なお、現代イスラエルに関しては『戦場でワルツを』という素晴らしい映画があるのですが、第二次世界大戦とは関係ないので詳細は端折ります。
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(*イスラエルの地に故郷を再建しよう、あるいはユダヤ教、ユダヤ・イディッシュ・イスラエル文化の復興運動を興そうとするユダヤ人の近代的運動家のことです。)
『ヒトラーの贋札』
こちらはオーストリア産のホロコースト関連映画。贋札づくりのために生かされたユダヤ人たちが生きるために必死で贋札を作るという映画です。生きるためとはいえ、進んで罪を犯したユダヤ人たちの血を吐くようなつらい心情が描かれています。これ、原作はノンフィクション。タイトルは一緒です。
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東部戦線など、一切触れることができなかった項目があります。知識不足です。東部戦線に関しては、サム・ペキンパー監督の『戦争のはらわた』という傑作がありますがすいません未見です。
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お付き合いいただきありがとうございました。次回は太平洋戦争編です
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