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21世紀のアクションの形 ジェイソン・ボーン・シリーズ 『ボーン・スプレマシー』『ボーン・アルティメイタム』

まず、『ボーン・スプレマシー』からだ。
ダグ・リーマン監督の『ボーン・アイデンティティー』が発表されたときは、せいぜい「スタイリッシュ・アクションの佳作」ぐらいにしか思っていなかったが、2作目の本作は傑作といって間違いない。

一作目『アイデンティティー』で、自ら持ち込んだこの企画を形にしたダグ・リーマンは、インディ系出身の監督らしく、慣習にとらわれない新しい形を模索していた。
ジェイソン・ボーンは、並外れた戦闘能力と知性を持ち、世界各国を飛び回る。だが、007のような典型的アクション・ヒーローと違い、彼は快楽主義者ではなく、溢れんばかりのセックスアピールもない。見た目は普通の青年だ。しかも、並外れた能力を持ちながら、それを必要以上に見せびらかそうとしない。
彼が力を発揮するのは危険が迫ったときだけだ。
それだけでなく、記憶が欠落しており、自分が何かの宿命を背負っていて追われているのに、それがなぜなのかわからない。
そんな、強いはずなのにどこか弱弱しいという相反する要素を持った存在、それが観客の共感を呼んだのだ。
ボーン役にマット・デーモンをキャスティングしたのも正解で、ハードな訓練で素晴らしいアクションをみせただけでなく、もともとナイーブな青年役を得意としていただけに、常に不安な状態にいるボーンに彼は適役だった。

もう一転、斬新だったのが、ボーンの使う格闘技。
「フィリピノ・カリ」というフィリピンの格闘技なのだが、ヴァンダム映画や香港アクションの打撃中心のものと違い、打撃技だけでなく、絞め技や関節技を多用する。アクションマニアならば知っていると思うが、実戦では相手に打撃でダメージを与えるよりも絞め技や関節技で相手の動きを封じてしまうほうが効果的で、「リアル」と評されることの多いスティーブン・セガールの映画でも、彼が敵に止めをさすときによく使うのは裸締めなどの絞め技だ。また、身の回りにあるもの(丸めた雑誌、先の尖ったペンなど)を使うのも新鮮だった。ガンアクションは三作通じてあまりなかったが、一作目のラストの銃撃戦では、ガンファイトの場面があり、ダブルタップ射撃やこまめなマガジンチェンジなど、かなりリアルな動きを見せていた。

しかし、一作目でまずかったのは無駄にラブシーンを入れてしまったことだ。
マリー(フランカ・ポテンテ)が必要なかったとは思わないが、あれだけラブシーンが多いと緊張感が薄れてしまう。

そんなわけで、『ボーン・スプレマシー』の冒頭でマリーがいきなり死んでしまうのには驚いたが、これがボーンに更なる影を背負わせ、ジェイソン・ボーンシリーズをよりストイックで緊張感のあるものへと進化させた。

2作目から監督がポール・グリーングラスに変わったのも大きい。
ダグ・リーマンと同じくインディ系出身のグリーングラスは、ドキュメンタリーの手法を用いて撮影した。
彼の撮影方法は、次に起こる出来事を観客に予測させない。カメラが目の前の出来事や人物の動きを追いかけるように動くのだ。その臨場感はすさまじく、まるで登場人物の息遣いまで聞こえてくるようだ。監督としての技量はダグ・リーマンよりもグリーングラスのほうが上だ。

そして、さらにスケールアップした『ボーン・アルティメイタム』も。

『スプレマシー』もストイックで知的で臨場感に溢れる見事な出来だったが、前2作で右肩上がりに興行収入があがったこともあってか、最終作となった今作では、スケール感も大幅アップしている。
『スプレマシー』の直後から始まる本作は、極寒のモスクワを、傷ついたボーンが逃げ回るところからはじまる。しかも、激痛に耐えるボーンの脳内に奇妙な記憶の断片がフラッシュバック。
テンションの高いつかみは完璧だ。
映画はしりつぼみになることなくどんどんテンションをあげてゆき、前半部の山場、ロンドンでのCIAとの攻防を迎える。

ここで、このシリーズの持つ魅力が全開になる。

ボーンは周到に張り巡らされたCIAの罠を、もてる知力と体力を全開にして潜り抜ける。
もうここまで来た時点で、マット・デーモンとポール・グリーングラスにおひねりの一つでも投げたい気分になっていたが、それだけでは終わらない。

アメリカのCIA本部では、理想派のエージェント、パメラ・ランディ(ジョアン・アレン)と、事件を闇に葬ろうとする黒幕ノア・ヴェーセン(デヴィッド・ストラザーン)が、知能合戦を繰り広げ、更なる情報をえたボーンは再会した情報係のニッキー(ジュリア・スタイルズ)の協力を得て、殺し屋の手を逃れながら、マドリード、タンジールへと駆け回る。ここでいいのは、ボーンとニッキーのあいだに安っぽい恋愛感情が芽生えないこと。ボーンとニッキーの意外なほどあっさりとした別れの場面は、作品全体の雰囲気とボーンというキャラクターが持つストイックさを象徴する場面だ。

名優、ストラザーンとジョアン・アレンの演技合戦も見もので、とくにアレン演じるランディは、ボーン捜査の過程でCIAの監視対象になってしまい、ある意味でボーンと似た状況に陥る。そこから本人も無意識のうちにボーンへの共感が生まれるのだが、さすがは名優ジョアン・アレンでランディのその危うい感情を自然に演じており、じつに見事だった。
パメラ・ランディが登場するのは二作目以降だが、最後でボーンと結果的に共闘することになり、重要な役割を果たす彼女は、もう一人の主役と言ってもいいのかもしれない。
そして、最後にたどり着くのは人間兵器「ジェイソン・ボーン」がCIAの極秘実験によって誕生したニューヨークだ。

ここで、ボーンはすべてを思い出し、すべてにオトシマエをつける。

『ボーン・アイデンティティー』、つまりボーンのアイデンティティーへの探求の旅はここで完結するのである。

「俺は何者なんだ」という謎の答えそのものは正直そんなにびっくりするようなものではなかったが(映画的にはって意味で)、この壮大なスケールの自分探し物語の終着点としてはこれ以上ない完結の仕方だ。

ここでの、ボーンと殺し屋パズ(エドガー・ラミレス)の問答にしびれた。
パズ「どうして俺を殺さなかった?」
ボーン「君はどうして俺を殺そうとするんだ?」

この問答の直後に、ボーンは10階建てのビルの屋上から飛び降りる。
彼は死んだかに見えるが、ハドソン川に飛びこんだあとの場面は『アイデンティティー』の冒頭の場面にそっくりだ。あの、記憶を失って新たな人生のスタートに立った場面と。

「ボーンの遺体は発見されていない」というニュース画面がながれて、観客が、ボーンの生死を憂いていると、彼は力強いストロークで泳ぎだす。

ここからまた、彼の新しい人生が始まるのだ。
最高!!!!!マジでかっこいい!!!!!
まだ見てない人はぜひ見て!!!


ちなみにロバート・ラドラムの原作があるのですが、大まかな筋以外まったく別物なので読まないでいいと思います。

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神谷正倫

Author:神谷正倫
大学院生、兼、物書き、兼、アマチュア俳優、演出家です。
もっぱら、文学、芸術、音楽、雑学系のことを書いていますが、主宰劇団の「劇団 木曜洋画劇場」の宣伝の場も兼ねています。

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